欺瞞

アンデルセンデンマークの有名な童話作家である。


 実は、アンデルセンの童話については、どことなくいやな感じ、というか、不快感を感じていた。もちろん、子供の頃に感じていたわけではなく、高校生か大学生の頃、岩波文庫版(たぶん)を読んで以来のことである。で、最近になって、やっとそのいやな感じの正体がわかってきたようだ。


 アンデルセンには、『裸の王様』のような傑作もあるにはあるが、代表作である『みにくいアヒルの子』をはじめ、『かたわもの』『親指姫』などといった作品に、そのいやな感じが如実にあらわれているようだ。


 アンデルセンの作品に一貫して流れるもの、それは、「醜い者には汚い心、美しい者には美しい心」という差別思想と、王様を賛美し、貧乏人は現状に甘んじるのをよしとする典型的反動思想である。


 そして、この醜い・美しいの判断基準は、俗物的な常識に従ったアンデルセンの基準に他ならない。アヒルやカエルやモグラは醜くて、ツバメや白鳥やチョウチョは美しく、従って心の美醜もそのとおり、ということである。


 更に許せないのは、アヒルは生涯アヒルであることの悲しみを、まったく理解していないことである。アヒルの中の変種だと思ったら白鳥だった、ああよかった、本当にアヒルじゃなくて。乞食だと思ったら王子だった、ああよかった、本当に乞食じゃなくて。といった「おめでたい話」が充満している。現実に乞食である者、現実に醜い者、とうてい回復し得ない身障者の心を、アンデルセンはまったく理解していない。彼らに「あきらめろ、夢でも見ていろ」と残酷に叫んでいるのが、アンデルセンの作品群ではないだろうか。